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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和41年(ウ)21号 決定

原告 原田正一

被告 長友末光

主文

本件を宮崎地方裁判所に移送する。

理由

本件訴状によれば、請求の趣旨として「被告が訴外原田邦利(債務者)、同押川利澄(第三債務者)、同宮崎県(第三債務者)に対し、福岡高等裁判所宮崎支部昭和四一年(ウ)第五号債権仮差押事件の執行力ある仮差押決定正本に基づいて、同年二月三日別紙目録記載の債権に対してなした仮差押の執行は許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因の要旨は「被告は訴外原田邦利(債務者)、同押川利澄(第三債務者)、同宮崎県(第三債務者)に対する福岡高等裁判所宮崎支部昭和四一年(ウ)第五号債権仮差押事件の執行力ある仮差押決定正本に基いて同年二月三日、別紙目録記載の債権に対し仮差押の執行をなした。しかし、右債権は原告に属するものであるから、被告が右債権につきなした前記仮差押執行の排除を求める。」というにある。

そこで、当裁判所のなした前掲債権仮差押命令の執行に対する本件第三者異議の訴につき当裁判所が管轄権を有するか否かにつき以下審案する。

そもそも、民事訴訟法第五四九条第三項、第五六三条によれば、第三者異議の訴は執行裁判所の管轄に専属すること明らかであり、他方、同法第七五〇条第二項によれば、債権の仮差押についてはその命令を発した裁判所をもつて管轄執行裁判所とする旨明記されている。

従つて、右各規定を文理上形式的に見るかぎり、本件第三者異議の訴についても債権仮差押命令を発した当裁判所の管轄に専属するかのよりに見受けられる。

しかしながら、仮差押の執行手続には原則として強制執行に関する規定が準用されるから地方裁判所が執行裁判所となるべきところ、債権に対する仮差押の執行に関し、特に前記例外規定を設け仮差押命令を発した裁判所を執行裁判所としたのは、債務名義を成立させた裁判所においてその執行をなさしめることが迅速なる目的の達成を理念とする保全手続の要請に副うという執行の便宜迅速を図る趣旨によるものというべきである。

ところが第三者異議の訴は、第三者が引渡を妨げる権利を主張して本案の債務名義に基づきなされた具体的執行の排除を求めるため提起する独立の訴であつて、その前提をなす執行手続そのものに含まれないことはもとより、その執行手続に附随された手続でもない。しかも、高等裁判所が第一審として審判する民事事件は、裁判所法第一七条により、特に法律で高等裁判所へ出訴すべきものと明定されている特殊な事件、例えば、公職選挙法第二〇三条、第二〇四条、第二〇七条等に定められた選挙又は当選の効力に関する訴訟、地方自治法第八五条に定められた地方公共団体のリコールに関する訴訟、同法第一四六条に定められた都道府県知事に対する職務執行命令に関する訴訟のごときものに限られるというべきところ、第三者異議事件については特に他の法律において高等裁判所の管轄とすることにつき明文上何等の規定も存在しない。もつとも、同条にいう「他の法律において特に定める権限」のなかに、本件のごとき訴訟(高等裁判所が執行裁判所としてなした債権仮差押執行に対する第三者異議訴訟)が含まれると解釈しうる余地もあろうが、民事訴訟法が債権(不動産についても同様)の仮差押の場合執行裁判所を特に当該命令を発した裁判所としたゆえんのものは、前述のように専ら執行自体の迅速を目的としたものであつてその具体的執行行為の適否を通常訴訟事件と同じ手続によつて事後的に審理判断する第三者異議訴訟についてまで、右の意味におけるような迅速性が当然に要請されるものとは考えられず、第三者異議事件の性質からしても当事者に審級の利益を失わしめてまで高等裁判所を第一審として審判させるに適した事件であると結論づける合理的根拠は見当らない。そうすると、民事訴訟法第五四九条第三項は、地方裁判所をもつて執行裁判所とする旨の同法第五四三条の規定をうけ、訴訟物の価格のいかんを問わず執行裁判所である地方裁判所の管轄に専属するものであることを明らかにしたに過ぎないとみられ、「債権の仮差押執行に対する第三者異議の訴を管轄する執行裁判所は、仮差押命令を発した裁判所が地方裁判所以外の裁判所であるときは、同法第五四三条の原則に従い、執行地を管轄する地方裁判所をもつて管轄裁判所と解するを相当とする。」

よつて、本件受訴裁判所は前記債権仮差押における執行地を管轄する宮崎地方裁判所の専属であつて当裁判所の管轄に属しないから民事訴訟法第三〇条第一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 永岡正毅 裁判官 長西英三)

(別紙)

仮に差押えられた債権の表示

一 債務者が第三債務者押川利澄に対して有する道路拡張に伴い、同第三債務者が所有家屋の取毀による補償として宮崎県から受くる交付金中より債務者の立退料として支払を受くることを約したる金九万円也の債権(補償金の支払期日昭和四一年二月四日、第三債務者から債務者に対する支払期日は補償金受領と同時、債務者同第三債務者間の約定成立の日は昭和四一年二月一日)

一 債務者が第三債務者宮崎県から道路拡張に伴い営業所(前項押川利澄所有家屋)取毀の為の移転補償費として交付を受くる金五万円也の債権(補償金の支払期日、昭和四一年二月四日)

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